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放射線について

投稿日:2023年03月17日最終更新日:2023年04月17日

放射線にはγ線、X線のように電磁波に属するものとα線、電子線のように粒子に属するものがあります。放射線は目には見えないため「放射線」=「危険」というマイナスイメージを持たれる方が多いですが、適切な管理をする事で、大変有用なツールとなり、産業、医療など幅広い分野で利用されています。ここでは放射線の歴史や種類と性質、産業利用について概要を紹介します。

放射線の発見

1895年レントゲンが放電管を用いて「陰極線」の研究をしている時にX線を発見しました。写真乾板に感光作用が見られたことにより、放射線に化学作用のある事が認められました。現在ではレントゲン写真(X線写真)として医療分野や工業分野で広く用いられています。その後1897年トムソンが「陰極線」の正体が「電子」であることが発見され、物理学はミクロの世界に足を踏み入れました。
1898年キューリー夫人が放射性同位元素であるラジウムを発見し、蛍光物質が放射線を受け自発光する性質を用いて夜光塗料に利用され、1900年代には皮膚疾患や悪性腫瘍の治療にも放射線が使用されていました。1950年頃にチャールズビーやドウルによりポリエチレンが放射線で架橋する事がわかったことから、工業利用が急速に発展しました。(詳しくはポリエチレンの改質の話 その1などを参照下さい。)

放射線の種類と性質

放射線は高エネルギーの電磁波と高い運動エネルギーを持って流れる粒子線に分類され
特徴として、物質を透過する能力、電離や励起を起こさせる能力を持っています。
放射線の種類をまとめると図1の様になります。

放射線の種類
図1. 放射線の種類

 

各種放射線の種類と性質を簡単に紹介します。
1.γ線とX線:光子の流れであり波長の短い電磁波の一種です。γ線は原子核から発生しますが、
それ以外をX線といいます。

2.β線と電子線:β線は原子核の自然崩壊により放出される高エネルギーの電子の流れで、電子線は加速器によって人工的に加速された電子の流れを言います。

3.α線:高エネルギーのヘリウム原子核の流れで、原子の崩壊により発生するものと加速器によって
作られます。

4.陽子線:高エネルギーの水素原子核の流れで、加速器によって作られます。

5.中性子線:原子核を構成している中性子が原子核の外へ運動エネルギーを持って一方向に
飛び出したものです。

この中で古くから工業用途に利用されている放射線としてはコバルト60から放出されるγ線と加速器を
用いて発生する電子線になります。電子線照射とγ線照射の違いはこちらを参照下さい。

放射線の防護に関して

私たちは人口放射線や自然放射線を絶えず受けています。この放射線の影響には放射線を受けた本人に現れる身体的影響とその子孫に現れる遺伝的影響に分けて考える事が出来ます。身体的影響は放射線を受けてすぐに表れる急性影響としばらくしてから現れる晩発影響があります。私たちは自然放射線を受けていますが、放射線を扱う職場で働く人は普通の人に比べ多くの放射線を受ける可能性が有りますので、できるだけ体の外側から放射線を受ける事(外部被曝という)を減らす方が良い事になります。そのためには放射線から自身の身を守るためには外部被曝防止の3原則(以下)を守る事が重要です。

1. 時間を短くする:時間が短いほど被曝量は少なくなる

2. 距離を大きくする:距離が離れているほど被曝量は少なくなる

3. 遮蔽で遮る:遮蔽物で遮れば被曝量は少なくなる

内部被曝(放射性物質を体内に取り込んでしまう事)に関しては

1. 放射性物質の取り込み量を減らす事

2. 取り込んだ放射線物質を減らす事(体外に排出する)

が重要になります。放射線の管理、防護の方法は、法規制で詳細に定められています。
(詳細はこちらを参照下さい。)

電子線照射装置からは大きく分けて2種類の放射線が発生します。先ず電子線そのものが放射線の1つであり、もう一つはその電子線が被照射物質内で吸収される時にエネルギーの一部として放出する時に発生する制動X線です。電子線照射装置では装置を使用される方が放射線に当たらないように遮蔽を考える必要があります。電子線照射装置の遮蔽に関しては、こちらを参照下さい。

放射線(電子線)の工業利用の歴史

1950年頃放射線によりポリエチレンが架橋することは既に述べましたが、その後どの様な製品に放射線(電子線)が利用されていくようになったかを振り返ってみます。
1960年代には日本でも電子線照射装置によるポリエチレン電線の耐熱性を向上させるため架橋電線の製造がはじまりました。その後電子線架橋熱収縮チューブや難燃性に優れたポリ塩化ビニルの架橋電線の製造もおこなわれました。また60年代後半には電子線架橋発泡フォームの製造も始まっています。
60年代にはボタン電池の内部ショートという課題を解決するために、ポリエチレンのグラフト重合で銀イオンの透過をコントロールする方法等、新たな用途が見いだされました。
1970年代に入るとタイヤメーカーによる電子線照射装置の導入・実用化が急速に進展しました。硬化の分野では、自動車メーカーであるフォード社の工場でABS樹脂やポリプロピレン製自動車内装材の電子線硬化塗装ラインが稼働しています。日本でも鈴木自動車をはじめ色々な企業で電子線硬化を利用した製品が誕生しています。詳しくは「EB硬化の応用~製品化の実施例など~」を参照下さい。

まとめ

放射線の工業利用が始まってから半世紀以上が経過し、色々な分野で実用化されております。
さらに2015年9月の国連サミットで「SDGs」が採択され、熱エネルギーなどの代替として放射線の活用が見直されはじめています。
特に電子線は放射線に中でも安全に管理しやすく、「高性能な食品包装材の製造」による食品ロスの削減、「印刷・塗膜の電子線硬化」によるVOC排出の削減などSDGsの達成に貢献しています。詳しくは「SDGsの達成に貢献する電子線照射技術」を参照下さい。現在、熱などで材料の改質や塗膜の硬化を行われている工程は電子線照射で置き換える事が出来る可能性を秘めています。熱エネルギー削減をお考えの方は、有料となりますが是非当社EBセンターでの照射試験をお試しください。

(寺澤記)


[本件に関するお問い合わせ]
株式会社NHVコーポレーション EB加工部
TEL:075-864-8815
こちらのフォームよりお問い合わせください。

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