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EB硬化の応用~製品化の実施例など~

投稿日:2022年10月31日最終更新日:2022年11月16日

これまで基礎編その1にて、EB硬化の特長と概要を、その2にて、アクリル系ハードコート剤を用いて照射条件などの硬化物性を紹介しました。今回は、応用編として、EB硬化の製品化の状況や最近の技術動向について紹介します。

EB硬化技術のこれまでの進展

日本においてEBによる塗膜硬化の研究が本格的に始まったのは、EB硬化に関するフォード社の特許が公告された1960年代の後半で、当時は塗料メーカーを中心に厚鋼板、プラスチック類の塗装をはじめ幅広く適用の可能性が検討されました。1980年代に入ると中里産業の屋根瓦の表面コートの工業化と高性能樹脂・塗料の開発、大容量EB装置の開発とが相まって実用化が相次ぎ、第2の活性期を迎えました。実用化の一例を表1に示します。

表1. 日本におけるEB硬化の実用化1)
EB硬化の実用化

 

EB硬化技術の利用例1)

EB硬化の特長を活かした実用化例を用途別に紹介します。

(1) 無毒性コーティング
UV硬化では、毒性のある光開始剤が塗膜表面にブリードする懸念があり、食品関連への利用が敬遠されています。そこで、光開始剤などの添加剤が不要であるEB硬化の適用が、食品関連のパッケージ類のコーティングや印刷用途で検討されています。

(2) 耐候性コーティング
EB硬化は、光開始剤を含まず架橋密度も高いため、耐候性が良好です。そのため、屋外用途のサインや看板に利用されています。耐候性のみでなく、硬度や耐汚染性、耐薬品性に優れており、建材、アート分野においても注目されています。写真-1は、EB硬化を利用した弊社九州EBセンターの看板です、設置後10年以上経過していますが、色あせなどは見られません。

(3) 不透明塗装剤によるコーティング
不透明塗装剤によるコーティングは、UV硬化ではなし得ないEB硬化の特長を生かすものです。代表的な応用例は磁気記録媒体であり、実際に、EB硬化を利用して商品化されたデータカートリッジテープが市販されており、低エラーで高い耐久性が得られています。写真-2は、EB硬化を利用したフロッピーディスクの一例です。

EB硬化技術の利用例, EB硬化, 利用例

 

(4) 高速、瞬間硬化
EB硬化は、硬化時間が非常に短く、その為ラインスピードを思い切って高速化(概略300m/min)できます。従って紙のような多孔質の基材にコーティングしても、塗工後塗装剤が基材に浸透する前に硬化を完了させることができます。

(5) 高架橋密度コーティング
EB硬化は、極めて高い架橋密度を有するため高硬度の皮膜が得られます。
この実用化例として鋼板分野では、1982年に白板用として、1987年にトンネル内装板としてのプレコート鋼板が開発されました。鉛筆硬度が8H以上の高硬度皮膜が得られています。一方フィルムの分野では、ハードコート転写箔の報告がされており、この用途にもEB硬化法はその特徴がうまく利用された例として着目されています。従来は、絵柄層を転写後にUV硬化を後加工により行われていました。EB硬化による方法では、離型用フィルム基材にEB硬化したハードコート層形成し、表層部にハードコート層となるように転写することで、工程短縮になります。尚、この技術が発展してEB硬化型インモールド転写箔が開発されました。

(6) 熱に弱い製品へのコーティング
ビデオプリンター用感熱記録紙への応用が報告されており、感熱層の上にEB樹脂をオーバーコートすることにより、耐熱性が優れ、銀塩方式の写真画像に近い高画質のものが実用化されています。これは、EB硬化のみで可能な方法であり、熱硬化やUV硬化では、硬化時の熱の影響で、感熱層が発色するという問題があります。

EB硬化製品の最近の利用例

最近の利用例について、近年公表された文献を元に紹介します。

(1) 高機能性フィルム2)
EB硬化塗料を基材フィルムに塗布し、EB硬化により重合させた後、硬化物を基材フィルムから剥がして高機能性フィルムとして利用する技術です。高透明性・高光沢・物理特性・化学特性・耐久性に優れたフィルムとして注目されています。

(2) 航空機用構造部材3)
最近の航空機は軽量化のために炭素繊維強化プラスチックが多く使用されています。従来の製法では、炭素繊維に熱硬化性樹脂を含浸させ加熱加圧炉で数時間かけて硬化させていました。この硬化時間の短縮のため、EB硬化(数十秒で完了)を適用する検討が開始されています。

(3) 塗装分野4)
オレフィン系シートにEB塗料を塗装し鏡面仕上げのEB硬化を実施することにより、キッチン収納、家具、室内ドア向けの化粧シートが製品化されています。傷や汚れに強く手入れが簡単といった特長があります。

①家具用鏡面シート
EB硬化技術を利用して、収納、キッチン扉用途として、鏡面シートが開発されています。絵柄を印刷した塩ビやオレフィン基材シートにPETフィルムを貼り合わせ、その上からEB樹脂をコーティングすることにより、耐擦傷性、防汚性、耐溶剤性に優れるとともに、加工性に適した樹脂柔軟性を付与した製品としています。

②床用化粧シート
家庭用の床材には、木質フローリングが使用されており、合板の表面に突板を貼り合わせ、その上から塗装されたものです。しかし、天然木のため色の不揃い、耐候劣化、干割れなどの問題点や水平面で使用するため耐傷性、耐汚染性など種々な課題も存在しています。これらの問題点や課題を解決するため、最表面の保護層に樹脂組成や架橋密度をコントロールしたEBコーティングが実施されています。

(4) 印刷分野5)
食品パッケージ向け軟包装等の分野で利用されており、ヨーロッパやアメリカを中心とした北米では30年以上前から実用化されています。

①EBフレキソ印刷
この印刷方法は、軟包装用などの印刷方法としてアメリカやヨーロッパで広く使用されています。通常は一色印刷するごとにインキを乾燥させていましたが、EBフレキソ印刷では未乾燥のまま色を塗り重ねて最後に全色を一度に硬化させる技術が広まっています。

②EBオフセット印刷
食品、非食品カートンの分野でアメリカやヨーロッパで長く実績がある印刷方法です。最近では、軟包装分野でも多く利用されるようになりました。また、最大のメリットは、無溶剤印刷が可能なことです。

③EBグラビア印刷
この印刷方法は印刷時の圧力が高いので、フレキソ印刷やオフセット印刷のような多色印刷ができません。しかし、最近になり水系のEBグラビア印刷用インキも開発されており、各色の印刷と乾燥を繰り返した後、最終段階でEBにより一括硬化を行う方法です。

まとめ

EB硬化技術は、技術的には種々の特徴と可能性をもっていることは、これまで述べてきたことで明らかです。すなわち従来から云われている無公害、省エネルギー、高生産の技術という生産面だけの利点だけでなく、高機能な品質を生み出せる技術であり、またクリーンな作業環境など、SDGsにマッチし、将来に期待のかけられる技術分野であることには間違いないと思われます。

(中井記)

参考文献

1)向井貞喜、中井康二:日新電機技報 Vol.40,No.2,P11 (1995)
2)桝田義勝:第11回放射線プロセスシンポジウム講演要旨集、P.32 (2005)
3)赤土雄美、横江奏幸、他:第38回UV/EB研究会資料、P.1 (2008)
4)横地英一郎:放射線と産業、No.133,P31 (2012)
5)武井太郎:放射線化学、第100号、P.71 (2015)

 


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株式会社NHVコーポレーション EB加工部
TEL:075-864-8815
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