電子線照射お役立ち情報

線量率・分割照射とそれらの影響

投稿日:2021年11月01日最終更新日:2022年02月15日

放射線(電子線)照射では吸収線量率の大小により照射製品の物性が変化する事もあるので照射時の重要なパラメーターとなります。ここでは線質の違いによる吸収線量率の違いや吸収線量率による影響、電子線照射による発熱とその対策方法を説明します。

吸収線量とは

吸収線量は放射線照射により被照射物が単位質量当たりに吸収したエネルギー量を表しています。電子線照射において、線量とは吸収線量を指すことが多く、ここでも吸収線量の事を単に「線量」と呼びます。国際単位系では1kgに1J(ジュール)のエネルギーを吸収した量を1Gy(グレイ)と呼びます。放射線化学では通常この1,000倍のkGyが使用されます(1,000Gy=1kGy)。

吸収線量率とは

単位時間当たりに吸収された線量を吸収線量率と言います(以降単に線量率と呼びます)。したがって単位はkGy/s等で表されます。たとえば線量率を電気にたとえると仕事率(kW)に相当しているといえます。ある高分子に同じ線量(kWh)を異なる線量率(kW)で電子線を照射した時、高分子の物性変化の仕方が違うことがあります。電気で言い表すと1kWの炊飯器で30分調理し、0.5kWhを与えるとお米は上手に炊けますが、この炊飯器で0.1kWで5時間調理し、0.5kWhを与えてもお米は上手に炊けず、その仕上がりは全く異なります。これと同様の事が放射線照射でも起こります。

電子線照射、γ線照射における線量率等の違い

電子線が50kGy/s程度の高い線量率での照射が可能なのに対して、γ線は2桁程度低い10kGy/h程度です。この事を裏返して考えると、電子線は透過能力が小さいので被照射物に短時間で大きな線量を与えられますが、γ線は透過能力が大きいので、被照射物に短時間で与えられる線量は小さい事になります。
電子線とγ線の線量率、透過力などの違いをまとめると表1のようになります。

Co線と電子線の線量率他の違い
表1 電子線とCo-60γ線の線量率他の違い

照射における線量率の影響

図1は線量率の違いによる酸化層厚さを模式的に示しています。
電子線のように線量率が高いと高分子鎖と酸素との反応速度が大きく、樹脂内部に酸素が拡散するまでに照射が完了するため、内部は無酸素状態で照射され、表面だけが酸化状態となります。(図1左)
一方、γ線のように線量率が低いと高分子鎖と酸素の反応速度が遅いため、酸素は樹脂内部まで拡散し、酸化層が厚くなります。(図1右)
酸化層の厚さなど酸化劣化については放射線酸化に関する記事で詳しく述べます。

線量率の違いによる酸化層厚さ(模式図)
図1 線量率の違いによる酸化層厚さ(模式図)

照射による熱の影響と分割照射

線量は1kgに1Jのエネルギーを吸収した量を1Gyと説明しましたが、線量を発熱量に換算すると10kGyは約2.4cal/gとなります。これは10kGyの線量全てがサンプルに対し熱として置き換わった場合の量となります。比熱1cal/g・Kの物質(例えば水1g)を約2.4℃温度上昇させるエネルギー量に等しいです。比熱が0.5 cal/g・Kのポリエチレンでは約4.8℃となり、数百kGy等の大きい線量を照射する場合はサンプルの温度上昇が問題となる場合があります。その場合、例えば500kGyの照射であれば100kGyを5回照射する等、温度上昇によるサンプルの変形などが発生しないようにする分割照射が有効です。この場合、実質の線量率は1/5となりますが、その影響はほとんどありません。

まとめ

線量率の大小により、同じ線量を照射しても仕上がりが異なる場合があります。これは線量率の違いにより材料の酸化劣化が起こる事によります。線量に付随して温度上昇の影響があるので、大線量を照射する際はあらかじめ概算温度上昇を算出し分割照射する等注意する必要があります。

(寺澤記)


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