エリアビーム型電子線照射装置について
投稿日:2023年02月20日最終更新日:2023年02月28日
電子線照射装置(EPS)は、電子のビーム形状により走査型とエリアビーム型の二種類に
分類されます。
エリアビーム型電子線照射装置は、低エネルギーながらコンパクトで大電流が出力可能であることから、各種アプリケーションの生産ラインに広く利用されています。
本記事ではエリアビーム型電子線照射装置の原理、特徴について紹介します。
エリアビーム型電子線照射装置(EPS)の原理
エリアビーム型EPSは、ビームを走査せず必要照射幅に応じて、必要本数のフィラメントを配置し、エリア状のビームを単段で加速する装置です。図1に構成図を示します。カソードから金属箔の窓部までの間に、電界を分担する為の電極等が無い構造により、高電圧の印加が困難なため、主に300kV以下のEPSで使用されています。
図1. エリアビーム型EPSの構成
エリアビーム型EPSの構成機器
(1)真空チャンバ
大出力装置では直径φ1m程度にもなる金属製の円筒状容器です。本チャンバ内に電子源部が設置され、内部は真空ポンプにより高真空(10-5Pa程度)に保たれています。低真空状態では、アース電位の真空チャンバと高電圧の電子源部間で放電が発生してしまうため、ビームを発生させることはできません。
(2)真空ポンプ
真空チャンバ内を高真空に保つためのポンプです。一般にクライオポンプやターボ分子ポンプ等が使用されています。
(3)電子源(フィラメント)
真空チャンバ内に設置される電子源はセラミック等から構成される高圧ブッシング(碍子)で支持されています。必要な照射幅を得るために、フィラメントの本数を調整します。フィラメントには1列に並べられたシングルガンと、大電流用に2列に並べられたダブルガンの2種類あります。ダブルガンでは、シングルガンと比較して最大2倍の電子流密度(電子流/照射幅)を得られるため、高速処理用の装置に採用されています。
(4)照射窓(金属箔)
真空と大気を分離する金属箔です。電子線はこの箔を通過し、大気中に取り出されます。そのため、エネルギー損失を限りなく小さくする必要があり、ミクロンオーダーの薄い厚みの箔を採用しています。
(5)直流電源
電気絶縁としてSF6ガスを封入した圧力容器内に、変圧器型整流回路を設置しています。この整流回路は、他の回路構成と比較して大電流を得やすい特徴があります。古くは絶縁材料として絶縁油を使用していましたが、故障時のメンテナンス性から、SF6ガスを使用しています。加速電圧はサイリスタ電力調整器の位相制御により、交流波形の一部を導通させ制御しています。
※SF6は、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの一つに指定されており、二酸化炭素比での地球温暖化係数は22,800と非常に大きいガスです。大気放出を削減するために、圧力容器を開放して実施するメンテナンスの際は、ガス回収を実施いたします。
エリアビーム型EPSの特徴
(1)低コスト・コンパクト
単段で加速する装置原理から加速電圧は比較的低く制限されます。しかし、加速管や走査管等の機器が必要な走査型EPSと比較して、小型・低価格になる特徴があり、幅広い産業分野で利用されています。
(2)大出力
大量生産のためには「搬送を速く」することが必要です。この要望に応えるためには、「大電流電子源」と「大電流高圧電源」が求められます。走査型EPSと比較して、フィラメント本数が多いので大電流を得やすい特徴があり、大量生産が必要かつ、処理厚みが小さいアプリケーションに採用されています。
(3)ビーム制御
搬送設備の加減速時も一定の照射線量を保つために、電子ビーム発生量を追従させる必要があり、制御装置の高速化が生産用EPSには求められます。
ビーム制御方式には、主に熱制御方式とグリッド方式があります。熱制御方式は、フィラメントの温度制御により熱電子の量を調整する方式で、最大電子ビーム発生までに要する時間は数十秒かかります。一方で、フィラメントに加わる電界を調整しビーム量を調整するグリッド方式では、瞬時に最大電子ビームに到達することが可能です。エリアビーム型EPSでは本制御方式を採用し、被照射物搬送設備の高速な速度変化に対応しています。
(4)照射環境制御
電子線照射は、空気中の酸素の影響を受けて反応を阻害される可能性があります。(詳細につきましては、こちらを参照ください。)
コンパクトなエリアビーム型EPSでは、比較的容易に照射雰囲気を窒素置換することができ、照射効果を高めることができます。また、薄いフィルム等への照射の場合には、電子線照射による照射対象物の温度上昇を抑えるため、搬送ロールを水冷化することも可能です。
さいごに
ここまで、エリアビーム型EPSの原理・特徴について説明させて頂きました。当社では、1983年のエリアビーム型EPSを搭載した実験用装置販売開始から、現在に至るまでお客様の実験サポートや生産用装置の提案を行うことで、多くの製品を納入して参りました。近年では、生産設備の小型化や、イニシャルコスト低減のためエリアビーム型EPSのニーズは日々高まっています。
本装置導入についてのご相談は、お気軽に当社にご連絡ください。
(奥田記)
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