電子線の線量測定方法 その1
投稿日:2023年01月30日最終更新日:2023年02月20日
電子線照射装置の工業利用は世界各国で行われており、すでに有用な技術として定着しています。電子線照射において、重要なパラメータの一つである線量の測定技術は(電子線照射)製品の開発や品質管理などには不可欠です。
線量測定方法には数多くの種類があり、工業用途では目的によって、数種の方法が使い分けられています。そこで今回は線量計の種類とその概要について紹介します。
線量=吸収線量
放射線を用いた加工では、線量(dose)といった単位が使用されます。もともとdoseは、薬1服分の単位を表わしていましたが、放射線では、放射線の量、すなわち線量という単位となっています。線量には、吸収線量と照射線量がありますが、1962年ICRU(国際放射線単位測定委員会)はabsorbed dose(吸収線量)とexposure dose(照射線量)とを区別するために、照射線量についてはdoseという言葉を削除し、単にexposureとし、「線量は吸収線量だけを意味する」としました。日本では、依然として照射線量という用語が通用していましたが、放射線化学においては、照射線量より吸収線量の方が重要であるので、近年は線量=吸収線量と考えるほうが一般的になっています。(吸収線量は単位質量当たりのエネルギー付与量であり、Gy(グレイ:SI単位)を用います。詳しくは吸収線量と線量測定を参照下さい。)
基準線量計と実用線量計
(1)基準線量計(一次線量計)
カロリーメーターなど線量の定義に則って測定する方法であり、測定精度は±2~3%で、再現性も良いのですが、測定するのに非常に手間がかかります。その性質上、実用線量計の校正に用いられています。
(2)実用線量計(二次線量計)
放射線照射により、ある線量の範囲で着色、脱色、酸化・還元反応、ラジカル生成などが線量に対して相対的に変化していく材料を用いた線量計です。基準線量計にて校正する必要があります。(ルーチン線量計とも呼称されます。)
測定精度は、±5~10%です。
基準線量計の種類
(1)電離箱
X線やγ線などの放射線が電離箱に入ると放射線の通った軌跡に沿って生じるイオンを集め、その電荷量から線量を求めます。放射線防護用のモニターや放射線治療用の線量計として用いられます。
(2)カロリーメーター
固体や液体に放射線エネルギーを吸収させ、その温度上昇分について比熱を用いて計算し、吸収線量を直接測定します。測定器の構造より1.0MV以上の電子線に用いられます。
(3)アラニン線量計
放射線照射によりアラニン(CH3-C(NH2)H-COOH)が分解してできるラジカル(CH3-C・H-COOH)をESR(電子スピン共鳴)装置で定量します。測定には高価なESR装置が必要でですが、照射後に生成したラジカルは安定しているため、ESR装置を所有する外部機関へ郵送して定量してもらうトランスファー線量計として使用できます。アラニンは粉末なので、高分子と混ぜてペレット状・棒状にして用いています。
実用線量計の種類
(1)フィルム線量計
電子線用として最も広く利用されている実用線量計であり、透明あるいは半透明で放射線照射によって近紫外あるいは可視部の波長の吸光度が増減する高分子が用いられます。この高分子フィルムの照射前後の吸光度の差を分光光度計などで測定する方法です。高分子そのままのものと、照射によって着色あるいは脱色する染料などの添加物を加えたものがあります。
三酢酸セルロース(CTA)線量計、ラジオクロミック線量計、B3線量計、ブルーセロファン線量計などがよく知られています。(これら以外に使われているものとしては、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などがあります。)
(2)棒状線量計
熱ルミネッセンス線量計やアラニン線量計を棒状に成形したものです。アラニン線量計は、Φ3mmやΦ5mmであり、精度が高く、測定できる線量範囲も広いです。さらに照射後の線量応答の安定性が非常に高く、線量計としては非常に優れているのですが、先述の通り非常に手間のかかる測定です。
(3)板状、ペレット状線量計
フィルム線量計と同様に板状のポリメチルメタクリレート(PMMA)線量計がγ線滅菌の工程管理用としてよく使用されています。透明な状態では、ラジエ工業よりRadix W(1.5mmt)として、また染料を添加して赤色透明なものとしては、Harwell社(英国)よりHarwell Red (3mmt), Harwell Anber (3mmt)が発売されています。これらは、厚みが1.5mm以上であるため、γ線や数MeV以上の高エネルギー電子線で使用されています。
ペレット状としては、熱ルミネッセンス線量計やパラフィンで成型したアラニン線量計があります。
(4)液体線量計
液体状には無機試薬の低pH水溶液や染料などが含まれた有機溶媒が用いられています。線量値は化学的に安定な放射線分解生成物の濃度あるいは放射線で分解した着目する化合物の濃度の減少分に比例し、多くの場合吸光度の変化量として測定します。
現在広く用いられている液体線量計としては、フリッケ(硫酸第一鉄)線量計、硫酸セリウム線量計、重クロム酸線量計などがありますが、それぞれ線量測定範囲が狭い範囲に限定されています。通常ガラスアンプルに封入して使用されるので、γ線やX線の線量測定に用いられていますが、数MeV以上の高エネルギー電子線には使用可能と思われます。
国内で使用されている実用線量計
表-1に国内で使用されている主な実用線量計とその関連規格を示します。
JIS化されている線量計は、PMMA、CTA、ラジオクロミック、アラニンの4種類であり、国内ではこの4種類の線量計が広く用いられていることを証明しています。
さいごに
このように線量計には多くの種類があり、用途によって使い分けられています。中でもフィルム線量計が低~中エネルギーの電子線に、高エネルギーの電子線やガンマ線などでは、棒状やペレット状の線量計が用いられています。液体線量計は、測定者が作製して使用できるため、安価であることから研究用途などで用いられています。
次回は、いくつかの代表的なフィルム線量計についての概要を説明いたします。
(中井記)
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