電子線照射お役立ち情報

電子線グラフト重合 その3 ~付加する機能と用途について~

投稿日:2022年11月16日最終更新日:2022年11月16日

親水性、はっ水性

親水性の付加は、電子線グラフト重合で最もポピュラーな機能の一つで、モノマーはアクリル酸が良く用いられます。電子線の透過能力を適切に選択することにより、厚みのある多孔質材料の微細な孔や、不織布や織物などの繊維への付加が可能です。例えば、多孔質ポリエチレン(PE)を親水化しますと、図1のように、水滴が浸透するようになります。

多孔質PEの親水化
図1. 多孔質PEの親水化

 

アクリル酸の官能基はカルボン酸であるので、親水性とともに吸湿発熱の機能ももっています。実用例としましては衣類などへの吸湿発熱の付加です。電子線グラフト重合の特長である機能の高い耐久性を活かし、高い洗濯耐久性を実現しています。
一方、はっ水性の付加にはフッ素アクリレート系モノマーを用いるのが一般的です。フィルム表面にグラフト重合することで高いはっ水性を発現します。はっ水性を強くするためには多くのフッ素をもつアクリレート系モノマーを用いたいところですが、近年では環境負荷の観点から厳しくなっており、環境負荷の小さい代替モノマーが求められています。
ポリN-イソプロピルアクリルアミドは、温度によって親水性が変化する高分子です。約32℃を境にして、高温側では疎水性、低温側では親水性になります。この性質を利用するために、N-イソプロピルアクリルアミドを電子線グラフト重合した例がいくつか報告されています。中でも、シャーレ等の表面にグラフトすることで、特殊な細胞培養を可能にした器材が実用化されています1)

イオン交換能

陽イオン交換基や陰イオン交換基を付加することで、イオン交換樹脂として用いることができます。モノマーは先述したアクリル酸やスチレンスルホン酸などが用いられます。素材がフィルムの場合、含侵しやすい反応液を選択することでフィルム内部にもグラフトすることが可能で、イオン交換膜を製造することができます。耐久性の高さから酸化銀電池などのセパレータとして実用化されているほか2)、燃料電池のセパレータへの適用も研究されています。

吸着

吸着の機能は、消臭や水の浄化、希少物質の回収などに利用できます。モノマーは先述したイオン交換基をもつモノマーや、メタクリル酸グリシジル(GMA)が用いられます。GMAの場合は、グラフト後にGMAのエポキシ基を所望する官能基に変換することで、機能を発現させます。
電子線グラフト重合した吸着材の特長は、吸着する対象が低濃度であっても、すばやく吸着することができるということです。これはグラフトした官能基が素材の表面に密集していることに起因していると考えられます。
図2は低濃度のマグネシウムイオンが含まれている地下水に一方は市販イオン交換樹脂を、もう一方はグラフト吸着材を加えて、所定時間攪拌した時のマグネシウム濃度の変化を比較したものです。尚、イオン交換基は双方ともスルホン酸で交換容量は同程度です。

地下水中のマグネシウムの吸着比較
図2. 地下水中のマグネシウムの吸着比較

 

市販のイオン交換樹脂では10分程度攪拌して1ppm程度まで吸着できていますが、グラフト吸着材は数分とかからず、ほぼ完全に吸着することができています。このような特長を活かして衣類の消臭加工や、ごく僅かな不純物も問題となる超純水製造用のフィルタとして実用化されています。

難燃、防炎

高分子への難燃、防炎は様々な方法で実施されますが、電子線グラフト重合を用いると長寿命で機能の劣化が少ないことが特長です。モノマーとしてはリン酸エステル系が用いられます。繊維へのグラフトでは防炎製品試験である45°メセナミン法で基準をクリアしています3)。また図3に示すように、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)フィルムにグラフトすると、UL94規格において高い難燃性と判断されるVTM-0相当となりました。これは衣類の防炎加工として利用されています。

EVAフィルム, UL94燃焼試験, 比較
図3. EVAフィルムのUL94燃焼試験の比較 左:未処理  右:グラフト品

 

さいごに

以上のように、電子線グラフト重合で処理する素材は繊維やフィルムといったロール状で処理できる形態が向いていると言えます。これは電子線照射を連続的に行えるため生産性が良いことに起因しています。しかしながら、それは絶対必要というわけではなく、シャーレのように成形した樹脂でも実用化した例はあります。グラフトの特長と用途が上手くかみ合うことが重要です。
当社では電子線グラフト重合の試験サービスを行っております。電子線グラフト重合で相談したいことがありましたら、是非ご連絡ください。

(奥村記)

参考文献

1)坂井秀昭、岡野光夫:特技懇、No.271(2013)
2)中村知:放射線利用技術データベース、データ番号018008
3)宮崎孝司:繊維と工業、Vol.61, No.11(2005)

 


[本件に関するお問い合わせ]
株式会社NHVコーポレーション EB加工部
TEL:075-864-8815
こちらのフォームよりお問い合わせください。

この記事に関連するカテゴリ・タグ

SNSでシェアする