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放射線酸化について

投稿日:2022年02月15日最終更新日:2022年02月16日

空気中で高分子材料に放射線照射を行うと表面部分は必ず酸化されると言って間違いありません。放射線酸化が起こると材料特性が変わったり、嫌な臭いを発したりと製品化する際に問題になる場合があります。ここでは、どんな条件で放射線照射をすると、どの程度酸化が進むかなどを説明します。

放射線酸化と線量率

「線量率」の記事で述べたように、ガンマ線など低線量率(~kGy/h程度)で長時間照射を行うと酸化層が厚くなります。酸化層が厚くなると分子鎖切断が増大し、架橋度やゲル分率も小さくなります。逆に電子線など高線量率(~kGy/s程度)では、酸化層が薄くなります。酸化層が薄くなると架橋度やゲル分率は大きくなり材料劣化なども抑えることが可能となります。

放射線酸化反応の特徴

酸化反応が連鎖的に起こる要因は、酸化ラジカル「ROO・」であることが多いです。熱反応の場合は、かなりの高温でなければ、酸化ラジカルは生成しないのですが、放射線の場合は、室温で容易に生成されます。また、熱反応などではカルボン酸化合物「ROOH」が連鎖反応における最終生成物の一つですが、放射線ではさらに反応が進んで分解生成物などを生じることも、放射線酸化の特徴と言えます。
熱などの酸化反応と放射線の酸化反応を比較したものを図1に示します。これらからも、放射線酸化反応は非常に容易に起こり、材料の劣化を促進することが伺えます。

放射線の酸化反応
図1 酸化反応の比較

 

放射線酸化層の厚さ

先に述べたように、低い線量率で照射するほど酸化層は厚くなります。
この酸化層の厚さと線量率の関係について旧原子力研究所高崎研究所により酸素の拡散式を用いた解析が試みられ(式1)が導かれました1)

L=(2DSP/ΦI)1/2 (式1)

L:酸素膜の厚さ(cm)
D:酸素の拡散速度(cm2/s)
S:酸素の溶解度(mol/g/atm)
P:酸素分圧(atm)
I:線量率(Gy/h)
Φ:消費される酸素係数(mol/g/Gy)

D、S、Φは各高分子固有の値になり、Pは大気中照射であれば一定値です。すなわち、酸化層の厚さLはI(線量率)に反比例します。よって線量率が高くなれば酸化層厚さは小さくなります。

エチレン-プロピレンゴムでの実験結果
(線量を高めても酸化層の厚さは変わらない)

(式1)が実際の放射線酸化に当てはまることを確認する試験が行われました。

厚さ2mmのエチレン-プロピレンゴムに対し空気中で照射した後、アルコール性水酸化カリウム溶液に浸し酸化部分にカリウムを付加させ、カリウム濃度をX線マイクロアナライザーでカウントし、酸化生成物の量より、酸化層の厚さを測定しました。詳細内容は参考文献を参照下さい。
実験結果より以下のことがわかります。

  • 低線量率300Gy/hで照射すると、酸化層が厚く、線量率が高くなると、酸化層は薄くなります。
    従って線量率が低いほど内部まで酸化されることがわかります。
  • 同じ線量率であれば、線量を増やしても酸化層の厚さは増えず、酸化生成物の量が増えるのみです。
    従って線量を高めても酸化層の厚さは変らないことがわかります。

上記結果より定性的に次のように理解できます。
線量率が高いと短時間に沢山の反応活性種(ラジカル)が生じますが、それらは空気中の酸素と直ちに反応し、酸素は高分子の表面で消費し尽されてしまい、材料内部は無酸素状態で照射されます。
一方、線量率が低くなるに従い、材料表面での酸素の消費量が少なくなり、材料内部まで酸素が供給されて放射線酸化反応が起こるようになります。

照射臭

大気中で低密度ポリエチレンに電子線照射を行うと、図1の放射線酸化反応で示したように、酸化生成物であるケトン、カルボン酸といった臭いの閾値が低い生成物が生じます。これらが照射臭の原因物質と考えられます。
照射ポリエチレンの場合、カルボン酸生成量は照射雰囲気の酸素濃度にも影響されます。照射臭の対策として、不活性ガス雰囲気での照射、または、酸化防止剤であるブチルヒドロキシトルエン(BHT)の添加が有効であることが見いだされています。

まとめ

粉状や薄物材料の材料劣化、異臭発生等の問題解決には放射線酸化を低減させることが重要と思われます。放射線酸化を低減させるためには不活性ガス雰囲気や真空中で照射することが有効となります。
しかし、工業利用の場合、不活性ガス雰囲気や真空中で照射することはコスト面からできるだけ避けたい場合が多いです。電子線照射は、高線量率での照射が可能ですので、放射線酸化の影響を小さくするには有効な手段となります。

(寺澤記)

参考文献

1) 貴家恒男:放射線と産業 No.105 P51~P55「高分子材料の放射線劣化と改質 劣化と捉えるか改質と捉えるか 1.放射線酸化反応」(2005年)

以上


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