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ポリプロピレンの改質の話 その1 ~結晶性・架橋剤と電子線架橋~

投稿日:2022年09月30日最終更新日:2023年04月17日

ポリプロピレン(polypropylene、略称PP)は汎用性プラスチックの1種であり、機械的物性や耐熱性がポリエチレン(polyethylene、略称PE)よりも優れており、様々な用途で使用されています。
今回は、PPに対して電子線照射試験を実施したデータをもとに、材料の結晶性や架橋剤添加が電子線照射による電子線架橋にどのように影響するか紹介します。

PPの種類と結晶性

PPは一般的に、プロピレンと他の素材の配合比率により、一般的に3種類に大別されます。

ホモPP:純粋にPPのみです。
ランダムPP:PPに少量のPE(<5wt%)を混ぜます。PEは完全にランダムに取り込まれています。
ブロックPP:PPに少量のPEを混ぜます。PEはある程度の塊となっているため、混合物(海島構造)の形となり、島となるPEの周りをエチレンプロピレンゴム(EPR)が覆ったような状態です。

今回は、中でもホモPPとランダムPPを用いて、電子線架橋における架橋剤の添加効果について紹介します。それぞれの結晶性は、エチレンを含むランダムPPよりプロピレンのみのホモPPの方が結晶性は高くなります。これは、PPのα炭素に1個のメチル基をもつため、メチルの基間の反発が起こりやすく、立体構造(メチル基)が規則正しく揃いやすくなるからです。

PPの種類による照射効果の違い

PPの種類による電子線架橋の影響を示すために、架橋度合の評価としてゲル分率測定を行いました。縦軸をゲル分率、横軸を線量とした結果を図1に示します。ホモPPとランダムPPでは、100kGy以降でランダムPPの方が高いゲル分率となりました。これはランダムPP中に含まれるPE成分の影響だと考えられます。先程述べたように、ランダムPPは結晶性が低くい(非晶質が多いPEが含まれる)ため、分子運動がおこりやすく、電子線照射により発生した分子鎖間のラジカル同士が結合する確率が上がります。そのため、架橋が促進すると考えられます。

PPの種類による電子線架橋への影響
図1.PPの種類による電子線架橋への影響

PPと架橋剤

PEは電子線を照射すると、架橋反応が優先して進行するのに対し、PPの場合は架橋反応と崩壊反応のG値 がほぼ同じであるため、PP単体では架橋反応が起こりにくくなります。そのため、架橋剤を添加するのが一般的です。架橋剤としては、1分子中に2個以上のビニル基など反応性基を持つ多官能性モノマー(Polyfunctional monomer、略称PFM)が用いられます(図2)。このPFMの2重結合が電子線照射によりポリマーの分子鎖に生成したラジカルに反応し、PFMを介して架橋が起こります(図3)。架橋剤を入れ架橋を促進させることで、架橋に必要な線量を低減したり、電子線照射による副反応(主鎖の切断、H₂の発生など)を抑制したりします。

代表的な架橋剤
図2. 代表的な架橋剤

 

架橋剤の機構
図3. 架橋剤の機構

架橋剤と電子線架橋の効果

架橋剤による電子線架橋の影響を示すため、ゲル分率測定を行った、その結果を図4に示します。架橋剤未添加のサンプルと同様に、ランダムPPの方がホモPPよりゲル分率が高くなることがわかります。
また、架橋剤未添加のランダムPPは、300kGy以上の高線量でゲル分率が約25%となり架橋しましたが、架橋剤を添加したサンプルは20kGyでも約55%のゲル分率となりました。これより、架橋剤を添加することで、架橋が大きく促進されることが分かります。

架橋剤による電子線架橋の影響, TMPTMA
図4. 架橋剤(TMPTMA)による電子線架橋の影響

まとめ

PPは電子線照射により架橋と崩壊がほぼ同じ割合で起こるため架橋がされにくいです。架橋反応を優先させるためには、2重結合を多くもつPFMを添加させることが一般的です。
また、材料の結晶性も架橋反応に関係するので、結晶性の低い材料の選定も重要となってきます。
さて次回は、ポリプロピレンの改質の話 その2として、照射雰囲気と照射時温度の電子線架橋への影響について紹介したいと思います。

(吉谷記)


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